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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)1547号 判決

原告 破産者リリー製菓株式会社破産管財人 福岡福一

被告 中尾商店こと 中尾政吉

〈外二名〉

右被告三名訴訟代理人弁護士 石川欣哉

被告 合資会社仙台屋商店

右代表者無限責任社員 関誠

主文

本件を横浜地方裁判所に移送する。

理由

第一、一、原告の請求の要旨

原告は、当庁において昭和三八年六月一九日破産の宣告を受けた大阪市所在リリー製菓株式会社の破産管財人として、右破産者が、被告等に対して有した売掛代金債権の弁済として、被告等より譲渡を受けた破産者発行の株式の譲渡が商法第二一〇条により無効であり、仮に無効でないとしても破産法七二条一号、四号によりこれを否認することにより、いずれにしても右株式による代物弁済の効力がなく、従つて被告等に対する各売掛代金債権が存在することを理由としてこれが支払を求める。右各売掛代金は毎月破産者の本店に送金する約定がなされていたものであり、仮に、右約定がなかつたとしても、取立払の約定もなされていなかつたのであるから破産者の本店所在地を管轄する当裁判所が管轄裁判所である。尤も、本件各取引が破産者の東京出張所を通じて行われ売掛代金取立のため破産者の社員が被告等方に行つたこともあるが、これは集金を迅速容易に行うためと、得意先に対するサービスの一として行われたに過ぎず、取立払の約定があつたためではない。

二、被告等(被告合資会社仙台屋商店を除く、以下本項において同様。)の申立

(一)  破産者と被告等との間の本件売掛代金の弁済については、被告等と破産者東京出張所長内山栄雄との間に取立払の約定がなされており、現に売買代金は、各被告肩書営業所において毎月右内山に支払われてきたものであるから、本件訴訟の管轄裁判所は、被告普通裁判管轄所在地にして、かつ義務履行地たる各被告の肩書営業所所在地を管轄する裁判所であるといわねばならないところ、被告等協議の上本件を被告株式会社柏屋の営業所所在地を管轄する横浜地方裁判所に移送さるべきことを申立てる。

(二)  仮に、本件について当裁判所が管轄権を有するとしても、被告等はそれぞれ本件売掛代金につき、破産者において商品の販売促進のため商品に混入している金券(その券面額を販売価額より差引くもの)の合計額相当の減額、前記内山栄雄よりの値引通知に基く半額又は三分の二の減額等を受くべき抗弁を有するところ、右金券の一部紛失の事実について各被告の販売先たる小売店より証明を受けるための証人約一〇名が、すべて東京都、川崎市に在住し、証拠書類として提出すべく予定している各被告の帳簿も数十冊にのぼる事情にして、訴訟経済ないし訴訟促進の観点からして、本件を横浜地方裁判所に移送さるべきが相当である。

三、被告合資会社仙台屋商店関係

右被告は、当初他の被告等と同様訴訟代理人による移送申立をしていたが、第二回口頭弁論期日に自ら出頭し、管轄の点について異議をとどめず本案について答弁をした。

第二、判断

一、被告等(被告合資会社仙台屋商店を除く、以下本項において同様。)の移送申立について。

(一)  破産者と被告等との間の本件売掛代金債権について、原告が送金払の約定がなされていたと主張し、被告等は取立払の約定がなされていたと主張するところ、証人内山栄雄及び高橋幹夫の証言によると、破産者は、被告等を含む各販売先との間に、売掛代金は破産者の販売員が販売先に行つて集金する旨約定し、これが実行されていたことが認められ、右認定を覆えすに足るなんらの証拠がないから、被告等に対する本件売掛代金請求訴訟の管轄裁判所は、本件債務履行地にして被告等の普通裁判籍所在地たる各被告肩書営業所所在地を管轄する裁判所、即ち、被告中尾及び有限会社銘木商店については東京地方裁判所、被告株式会社柏屋については横浜地方裁判所であり当裁判所がこれについて管轄権を有しないことが明かである。

(二)  ところで、一人の売主から普通裁判籍を異にする数人の買主に対し、同種の商品を同様の条件で売渡したことにより同様の債権が発生した場合においても、このことのみをもつて、売主が右買主の内或者について管轄権を有する裁判所に右買主数人を共同被告として右債権請求の訴を提起し得ないことはいうまでもないところであるけれども、右各訴訟間に共通の証拠が提出されることが予測され、かつ、共同被告等において、その内の或被告に対する事件について管轄権を有する裁判所において審理されることを希望し、しかも訴訟をその裁判所において併合審理することにより原告たる売主も不利益を蒙らず、却つて訴訟経済ないし訴訟促進に寄与するような事情がある場合には、右共同訴訟全部について、一の管轄裁判所が民訴法二一条による管轄を有すると解すべきであり、この見解は、右共同訴訟が、本件のように、管轄権を有しない原告の住所地を管轄する裁判所に提起されたときにおいて、右裁判所がこれを管轄裁判所に移送する場合にも妥当とさるべく、この場合、移送裁判所は、本来ならば各被告の普通裁判籍所在地の裁判所に事件を分離して移送し、移送を受けた管轄裁判所において更に同法三一条による移送をなすべきことを省略する意味において、同条を類推適用し、一の管轄裁判所に全事件を移送し得ると解すべきである。

(三)  これを本件について考えてみるに、前示当事者の主張、申立の内容、ならびに前掲各証人の証言(証人内山も東京に現住している)に照せば、本件はまさに右(二)に述べた事例に該るというべきであるから、右説示の理由により、被告等に対する本訴を、被告株式会社柏屋の普通裁判籍所在地の管轄裁判所たる横浜地方裁判所に移送するのが相当である。

二、被告合資会社仙台屋商店に対する本訴については、同法二六条により当裁判所が管轄権を有するに至つたことはいうまでもないところであるが、同被告の営業所と所在地と当裁判所の地理的関係、その余の被告等に対する訴訟共通の関係等を比較考量すれば、これについても訴訟の遅滞を避けるため、同法三一条により、その余の被告等に対する訴訟と同様、横浜地方裁判所に移送するのが相当である。

三、よつて主文の通り決定する。

(裁判官 下出義明)

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